潜入ルポ~18歳女子大生・フリー雀荘アルバイト~①

    18歳の夏、私は薄紫色の艶やかなチャイナドレスを身にまとい、客にドリンクを運んでいた。

    大学に入って初めてのアルバイト。

    母が見たら、泣いたかもしれない。

    いや、別に泣くほどではないか。

    ここでは、そんな女子大生のひと夏の経験を、思い出として記す。

    目次

    入学式

    桜咲く。

    その年の4月、私は晴れて第一志望の大学に入学した。

    満開の桜の下での入学式。

    新入生は、ほぼ全員黒のスーツ。

    そんな中でたったひとり白スーツ姿の私は完全に浮いていた。

    まるで、からすの群れの中に迷い込んだ白鷺(しらさぎ)のようだった。

     

    クソッ!CanCamにしてやられた!

     

    確かに、18歳の私は世間知らずだった。

    今振り返ると、常識やモラルが欠けてたなぁと反省する場面は多い。

    しかし、この時の私は、世間知らずなりにちゃんと準備をしていたのだ。

    入学式に相応しい服装がどういうものかちゃんと下調べをして、場に適度に馴染みかつ気分が明るくなるようなスーツをこの日のためにわざわざ用意したのだ

    決して「何か人と違うことしてやろう!」などと意気込んで白スーツを着て行ったわけじゃない。あるいは、手元にあったスーツを仕方無く着て行ったわけでもない。

    なのに!

     

    すべてはCanCamのせいだ。

    CanCamの功罪

    高校3年生の冬。

    諸事情で早めに大学合格が決まっていた私は、みんなが追い込みの受験勉強をしている間に、のん気に遊んで暮らす…予定だったのだが、人生とはなかなか計画通りにはいかないもの。

    車の免許を取るために毎日自動車学校に通い(クリスマスイブは効果測定!)、バイトに明け暮れる(正月でさえも!時給はたった650円!)という忙しい日々を過ごしていた。

    ある日、バイト帰りに本屋に寄ると、ふと『Cancam』(キャンキャン)の表紙の「入学式特集!」という文字が目に留まり、立ち読みした。

    15年前のCanCamは、エビちゃんブームの真っ只中で「めちゃモテ」と言われる可愛らしい万人受けする服装が大流行していた。猫も杓子もエビちゃん。石を投げればエビちゃんに当たるような状態だった。

    当時高校3年生だった私は、こういう赤文字系の女性ファッション誌は一切読まず、どちらかと言うと青文字系と呼ばれる『Zipper』や『CUTIE』の方が好みだった。毎月買う雑誌と言えば、映画専門誌の『SCREEN』くらいで、とにかくCanCamとはかなり縁遠かったのだ。

    そんな私も、入学式の服装リサーチのために、わざわざCanCamを立ち読みした。

    そこには東京の私立大学の華やかな入学式をイメージさせる写真が載っており、可愛らしい女子たちがみんなパステルカラーのピンクや水色のスーツを身にまとい、まさに「華の女子大生」という感じだった。

    ほう、どうやら大学の入学式ではみんな明るいスーツを着るらしい

    しかし、パステルカラーは私の好みではない。

    そんなわけで、後日母親と百貨店に行き、店員さんのアドバイスも受けながら選んだのが純白のスーツだった。

    イメージはこんなやつ。

    出典元:オンワード23区 Webサイト
    完全に子どもの入学式の母親向け。
    私のはもっと純白だったよ!

    このモデルさん、育児や仕事に疲れたお母さんを想定してるのかもしれないけど、髪もうちょっとどうにかできたんじゃない?モデルさんだから可愛いけどさ。


    そして、入学式当日。

    思ってたんと違う

     

    新入生は約3,000人。

    そのうち半分くらいは女子にも関わらず、

    CanCamで見たようなパステル女子がひとりもいないのだ!

    おっ、明るい色の仲間見つけたー♪

    と思っても、鼠色か黄土色だった。

    それですら数名。

    なぜだ?

    なぜみんな暗い?

    私はとにかくそれが疑問だった。

    後から分かったことだが、CanCamで見た華やかな入学式は、東京の私立大学の様子で、国立大のそれとは似て非なるものらしい。

    参考までに、東京大学の昨年の入学式の様子はこちら。
    東京大学Webサイト

    やはり、東京でも国立大は全体的に黒いようだ。

    ここに真っ白がひとりいたら、結構浮く。

    (念のため明記しておくが、私は東大出身ではない)

    母への怒り

    いい感じに白鷺として浮いてしまった私だけど、楽しい大学生活のスタート地点で、みんなに一泡吹かせてやろうとかいう思いは微塵も無くて。

    確かに、高3の夏に1年間のアメリカ留学から帰国したばかりでアメリカナイズドはされてたんだけど、でもまぁ大学の最初くらいはとりあえず普通でイッとこうと思ってたんだよ。

    どうせ派手にするなら、もっと鎖とか付けてロックな感じにしたかったよ。

    すんごい中途半端に目立っちゃったよ。

    私の大学は、私の母親の母校でもある。

    にも関わらず、なぜ彼女は、娘の白スーツを止めてくれなかった?

    ずいぶん昔とは言え入学式の雰囲気はそう変わるものでもないだろう?

    なのに、むしろあの人もノリノリで即決だったぞ?

    スーツを買った店の店員さんだってもしかすると入学式の雰囲気知ってたんじゃなかろうか?

    「○○大学でしたら黒の方が…」とか言ってくれても良かったんじゃないか?

     

    入学式の式典中も、あわやその疑問や不満が頭を支配しそうになった。

    しかし幸いなことに、私は前夜に漫画『はじめの一歩』を1巻から25巻ほど徹夜で読みふけり、一睡もしないまま入学式に臨んでいた。

    当然、長い入学式の学長とか諸々のおカタい話を聞いているうちに眠気のピークとなり、ボクシングの夢を見ながらすやすやと寝た。

    式典が終わると、新入生たちは会場を出て、大学のキャンパスに三々五々移動することになっていた。

    同じ学科の学生たちと少し話したが、みんなスーツは黒だった。

    私を見て「白いね」と言ってくれた子もいた。

    2,3年後、仲良くなった後でみんなで入学式の話をしている時に「あの時は白い人がいてびっくりした」と口々に言われた。

    思い出しながら爆笑した失礼な友人もいた。

    ネタになったからこの話はまぁいい。

    今でも疑問なのは、東京や関西の私立大学だったら私は浮かなかったのか?ということ。

    CanCamの入学式写真は幻ではなく実在したのだろうか?

    「慶應 入学式」「上智 入学式」などとググればすぐに解決するのかもしれないが、まぁこの疑問は一生抱えたまま死んでもいいかなと思っている。

    はじめの一歩

    入学式の式典が終わり、会場の外に出ると、新入生を歓迎すべく大勢の先輩たちが待ち構えていた。

    部活やサークルの勧誘だ。

    在学生が所狭しとギュウギュウ詰めで立っており、それが花道のようになっている。新入生は先輩たちの間を抜けるようにして大通りに出なければいけない。そこまでの道のりで、私も他の新入生同様、膨大な枚数の新歓ビラを受け取った。

    手に積み上がっていくビラを、人混みを歩きながら一応目を通していたのだが、そこで1枚のビラが目を引いた。

    「ボクシング部 部員募集中!一緒に強くなろう!ボクササイズにも♪」

    そんな感じのことが書かれていた。

    これは運命だ。

    そう思った。

    なぜなら、私は徹夜でボクシング漫画『はじめの一歩』を読んだばかりなのだ。

    スーツの色問題を除けば、頭の中はボクシングでいっぱいなのだ。

     

    強くなりたいか?

    なんたる愚問!

    なりたいに決まっている!!!

     

    一歩、鷹村、間柴、そしてヴォルグみたいに強くなりたい。

    ボクササイズなんて生ぬるいこと言ってるような腑抜けでは、勝てない。

    やるなら本気だ。

     

    そうして、私はその週のうちにボクシング部に見学に行き、正式に入部届を出した。

     

     

    ②につづく

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