左右が分からない生涯を送って来ました

左右が分からない生涯を送って来ました。

自分には、右と左を瞬時に識別できる人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は1980年代後半、日本経済が活々丼々（いけいけどんどん）の頃に生れまして、左右の概念を教えられたのは、おそらく北川景子の夫でタレント兼ロックシンガーであるDAIGO氏の祖父・竹下元首相が消費税を導入した頃だったかと思います。お箸を持つ方が右、お茶碗を持つ方が左。一般的に子どもたちが教わるごくごく普通の方法で習い、自分も何となく分かったつもりになっていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。

お箸を持つ方が右、お茶碗を持つ方が左という教えは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜（あかぬけ）のした叩き込み術で、それは教育のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ大人が子どもに左右の見分け方を教える面倒くささを解消するための頗（すこぶ）る実利的な手段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めました。
　自分は子供の頃からどちらが右でどちらが左か咄嗟に判断が付かず、よく失敗をしましたが、他人にとって左右の認知がいかようであるかを知る動機も手段も無く、まぁ人間とは所詮この程度の産物なのだろう、と考えることすらもなく唯唯いたづらに毎日を過ごし、つくづく、左右とは人間が作り出したつまらない定義だと思い、それが案外に世間一般の感覚とは異なる事を、二十歳すぎになってわかって、自分の愚鈍さに暗然とし、悲しい思いをしました。
　また、自分は、東西南北を瞬時に判断するという事もできませんでした。いや、それは、自分が東西南北に困らない家に育ったという意味ではなく、そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「東西南北」という感覚はどんなものだか、さっぱりわからなかったのです。へんな言いかたですが、東西南北が分からなくても、自分でそれに気がつかないのです。小学校、中学校で、東西南北とはどういうものかを習いました。日本地図を示し、北は北海道、南は沖縄。右が東日本で、左が西日本。周囲の人たちが、ニシへヒガシへと騒ぎますので、自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、「九州は西日本。九州は日本地図でこっちの方にある。だからこっちが西」と呟いて、甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのですが、東西南北とは、どんなものだか、ちっともわかっていやしなかったのです。
　自分だって、それは勿論、普段の会話で大いに左右や東西南北を語りますが、しかし、真に身体と脳で反射的に理解した上で、それらを語った記憶は、ほとんどありません。自分の判断には幾許（いくばく）かの時間が求められます。それはほんのニ、三秒の束の間とは言え、その思案を怠ると「次、右折ね」と指示されても平気で左折をしてしまう、自分はそんな人間なのです。右手がある方が右です。左手がある方が左です。九州がある方が西です。東京がある方が東です。東の海＝イーストブルーなので、東はイーストです。消去法で西がウエストです。こうして、自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、助手席の夫の指示を聞きながら知らない道を運転する時間でした。

左右盲とは

「左右失認」、英語では「left-right confusion」とも言われる左右盲は、病気でも発達障害でもないのに右と左を感覚的に理解できないハンデを持つ。
Discovery Japan　トピックス

調べたところ、病気でも障害でもないらしい「左右盲」。どうやら私とドラゴンボールの餃子（チャオズ）もこれに当てはまるようです。私の場合は車を運転するようになってから「自分は人より左右の判断が苦手」ということに気付きました。日常生活ですんごい困る！ってほどではないのですが、場面によってはとんでもないミスをしてしまいます。

おそらく、左右の識別は本来右脳で感覚的に処理するのでしょうが、私は空間認知能力が人より弱いので左脳を使って言語から翻訳するために時間がかかってしまうんだと思います。一般的に、男性より女性の方が空間認知能力が低いとされ、左右盲も統計的に女性（と左利き）の方が多いそうです。

左右盲の人にはどんなことが起こるのか、私の実体験に基づいて簡単にまとめておきます。もしあなたの周りに似たような人がいたとしたら、急かしたりミスを責めたりせずに、優しく見守ってあげてください。

左右盲の困りごと

基本情報

左右の判断に少なくとも2,3秒かかる。
他に何か考えごとをしている時は、頭の切り替えのために5秒ほどかかる。
「右を見て」と言われても、慌てると左を見てしまうことがある。

上下は一瞬で分かる。
南北は一呼吸置いて考えると分かる。
東西はすぐには分からない。頭に地図をイメージしないと識別できないので、左右よりやっかい。

車の運転

私は運転が得意な方です。助手席に乗った人みんなから「安心して乗れる」と褒めてもらえます。人生で一度はトラック運転手の仕事をしてみたいと思っているくらい運転が好きです。

ただし、左右の識別は壊滅的です。助手席の夫から「次、右折ね」と言われて「はいは～い」と普通に左折してしまったことが数え切れないくらいあります。「左のレーンへ」と言われると頭で一生懸命考えて、左とは一体どちら側なのかやっと分かります。

そもそも、日常生活において人間が一番脳を働かせるのは、運転中らしいです。昔ためしてガッテンで言ってました。安全最優先で歩行者・自転車・バイク・他車に目を配り、サイドミラーやバックミラーにも視線をやり、標識を見落とさないよう細心の注意を払い、その上道を間違えないように神経を使い、アクセルとブレーキも絶対に間違えてはいけません。

そんな状況で、「右折」とか言われても分かるわけがありません。

育児

・０～2歳頃の声掛けとして、洋服を着せる時に「は～い○○ちゃんの右手出てきたね～」などと手足や左右を言葉で教えてあげるといいらしいんですが、とっさに左右が分からないので「○○ちゃんの手だね～」が限界でした。

・息子の左足の指の裏が荒れており、毎晩軟膏を塗ってあげるんですが、毎晩欠かさずにどっちの足か分からなくなって息子に聞きます。ただでさえ左右が分からないのに、向かい合わせだと完全にお手上げです。

・子どもによく「ママ～背中かゆいから掻いて～」と頼まれます。かいかいしてあげると、「もっと左」「ちょっと右」とか指示が出ますが、言われてもすぐには分かりません。考え事をしているとよく間違えるので「そっちじゃない～」とクレームが入ります。

子どもには左右盲の微妙な苦労をさせたくないので、幼少期から左右の識別能力を養うために、背中の掻く位置はちゃんと「右」「左」「右斜め上」「左斜め下」などと言葉を使って指示を出すように伝えています。

・私は右利きですが、4歳の息子が左利きとして生まれました。息子を育てていると私の左右盲に拍車がかかります。向かい合わせだともう完全にお手上げです。

家族も親戚も全員右利きなのに、息子だけ左利き。利き手は遺伝らしいんですが、不思議ですね。調べてみると、右利きの両親から左利きの子どもが生まれる確率は9.5％だそうです。右脳をガンガン使ってのびのび育ってほしいと思っています。

両親とも右利きで左利きが生まれる確率は9.5%、片方が左利きでは19.5%、両方が左利きでは26.1%といわれています。数字をみれば確かに両親が左利きなら4人に1人は左利きの子になり、左利きの子が生まれやすいといえます。しかし、両親が左利きでも子どもの4人に3人は右利きになり、左利きから生まれるのは右利きのほうが多いです。遺伝しているようですが、単純には説明できません。いったい利き手の違いは脳のどこがどう違っているのか。まだ、謎のままです。
かわかみ小児科クリニック